木の道の匠の よろ 086 ★★★

2019-11-07★★★:源氏千年の謎に挑む02 帚木

解読編

帚木 原文 現代語訳 第6章04

みちたくみの よろづのものこころにまかせてつくだすも りんのもてあそびもののそのものあとさだまらぬはそばつきされば たるも げにかうもしつ かりけりとときにつけつつさまをへていまめかしきにうつりてをかしきもあり だいとしてまことに うるはしきひと調てうかざりとする さだまれるやうあるものなんなくしづることな  なほまことのものじやうは さまことにかれはべ 
難易度★★★
(左馬頭)指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。

解釈の決め手

よろづの物を心にまかせて作り出だすも

どんなものであれ心任せに作り出す場合でもの意味で、以下二つのケースに分けて論をすすめる。一つは空想の産物、今ひとつは実世界にモデルを見いだし得る作品。心にまかせは母集合、空想の産物とモデルを探せる作品はその部分集合である。

うるはしき人の調度の飾りとする

「うるはしき人(注文主の貴族)の調度を飾るにふさわしい(作品)」。「うるはし」は、きちんとしたの意味で、ここはこんな感じ、ここはこうなどと、注文が細かいのだろう。「うるはしき人」は職人とする解釈もあるが、いきなり「調度の飾りとする」が出るのは不自然である。また、「うるはしき人」が職人なら、その動作は「難なくし出づる」と考えなければならない。しかし、「難なくし出づる」の主体は倒置された「まことの物の上手」であって、「うるはしき人」を主語に立てることはできない。さらにその読みでは何度も繰り返している交差禁止に觝触する。「大事としてまことに」が「定まれるやうある物」に係るので、その間の要素は「定まれるやうある物」より後ろに係ることも主述となることもできないから、「うるはしき人」は職人ではなく、「うるはしき人の調度(の飾りとする)」と考えるしかないのだ。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:心に任せて作る作品決まった基準のある作品

  • 木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも》A
    指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、
  • 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは》B
    一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、
  • そばつきさればみたるも・げにかうもしつべかりけりと》C・D
    一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、
  • 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり》E
    時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、
  • 大事としてまことに うるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ》F
    大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、
  • なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる》G
    やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。

中断型:A<B<C<D<EφF<G

  • A<B<C<D<EφF<G:A<B<C<D<E、F<G
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:も…は…をかしきもあり/三次φ見え分かれはべる/二次

115の道の匠〉のよろづの物を116にまかせて作り出だす 117118119〈もてあそび物の その物と跡も定まらぬ〉は 120ばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 121事としてまことに 122123はしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づる〈こと〉なむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 115「(木の道の)匠の…作り出だす」:AのB連体形(「の」は主格)
  • 116「心にまかせて作り出だすも」:「も」は接続助詞で逆接。基準なく心のままに作った場合であっても、「をかしきもあり」
  • 117「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬ」::AのB連体形(「の」は同格)
  • 118「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬは」→「(時につけつつさまを変へて今めかしきに目移りて)をかしきもあり」
  • 119「臨時の…跡も定まらぬ」「大事として…し出づる(ことなむ)」:対の表現
  • 120「そばつきさればみたるも」:「も」は接続助詞で逆接と考える。一文の前半の前半、ここで下げておいて前半の後半「をかしきもあり」で持ち上げる。
  • 121「大事としてまことに」→「定まれるやうある物」
  • 122「うるはしき人の調度の飾りとする」:AのB連体形(「の」は主格)
  • 123「うるはしき人の調度の飾りとする」+「定まれるやうある」→「物」

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語彙編

木の道の匠

木地師や指物師や宮大工などをいうのだろう。

跡も定まらぬ

こうすべき型もなくの意味。

そばつき

はたからちょっと見た感じでは。一見。

さればみたる

しゃれている、風流っ気がある。

げに

(しげしげと見てみると)なるほど。「そばつき」と対比される。

かうもしつべかりけり

こんな風にもすることができるのだなあ。

時につけつつ

場合に応じて。

いまめかしき

今風。

定まれるやうある物

「跡も定まらぬ」の反対で、定まった型がある品物。あるいは決まった用途のある物。

まことの物の上手は

真の評価の定まった名人は。物は動くことがない状態の形容。

ことに

違って、あるいは特別に。

おさらい

木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる

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