げにさし向ひて見む 060
解読編
目次
帚木 原文 現代語訳 第4章14
げにさし向ひて見むほどは さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを 立ち離れてさるべきことをも言ひやり をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは いと口惜しく頼もしげなき咎や なほ苦しからむ
難易度難易度☆☆☆
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(左馬頭)なるほど差し向かいで暮らす間は、至らぬ点もかわいさに免じ大目にも見れましょうが、離れ離れでは大事なことも人づてになり、時節時節欠かせぬことなんかでも私的であれ公ごとであれ、自分の問題として考えようとせず心遣いが行き届かないのは、何とも情けなく頼みにならない難点であって、やはり心配の種でしょうな。
ここがPoint
話者の決め手
頭中将の前言「ただひたふるに子めきて柔らかならむ人を・とかくひきつくろひてはなどか見ざらむ」を否定することから、左馬頭の発言だとわかる。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:男(発言者)/女
- 《げにさし向ひて見むほどは・さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを》A・B
なるほど差し向かいで暮らす間は、至らぬ点もかわいさに免じ大目にも見れましょうが、 - 《立ち離れて・さるべきことをも言ひやり》C・D
離れ離れでは大事なことも人づてになり、 - 《をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも・わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは》E・F
時節時節欠かせぬことなんかでも私的であれ公ごとであれ、自分の問題として考えようとせず心遣いが行き届かないのは、 - 《いと口惜しく頼もしげなき咎や・なほ苦しからむ》G・H
何とも情けなく頼みにならない難点であって、やはり心配の種でしょうな。
分岐型・中断型:A<B<(C<D<E<F<)[G<]H
- A<B<(C<D<E<F<)[G<]H:A<B<H、C<D<E<F<H、G
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:は…なほ苦しからむ/五次
〈[男]〉げにさし向ひて見むほどは さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを 立ち離れてさるべきことをも言ひやり をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも 〈[女]〉わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは /いと口惜しく頼もしげなき咎や/ なほ苦しからむ
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 091「立ち離れてさるべきことをも言ひやり」:かかるところがなく、形は中止法だが、意味がない。文法的に可能なのは「をりふしに出でむ」と並列である。「立ち離れてさるべきことをも言ひやり あだ事にもまめ事にもわざのをりふしにし出でむ[折りに]」を変形して作られる。「をも」「にも…にも」が呼応しているため、実質てきには、「も言ひやり」は「も言ひやるにも」として逆接の働きになっている。非文法的ではあろうが、生き生きした口語表現と考える方がいいだろう。
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語彙編
さし向ひ
いっしょに暮らす場合で「立ち離れて」と結婚形態が違う。
さても
そのままでも、つまり至らぬことがあっても。
さるべきこと
そうすべきこと、大事なこと。
わざ
大事なこと。
あだ事
娯楽など非公的なこと。
まめ事
公的なこと。
わが心
自分の大事なこと。心は大切な点。
いたり
行き届き。
おさらい
げにさし向ひて見むほどは さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを 立ち離れてさるべきことをも言ひやり をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは いと口惜しく頼もしげなき咎や なほ苦しからむ
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