すぐれて疵なき方の 044 ★★☆

2019-11-06★★☆:文の構造を捉え直す02 帚木

解読編

帚木 原文 現代語訳 第3章13

すぐれてきずなきかたえらびにこそおよばざらめ さるかたにててがたきものをは とてしきやれば わがいもうとどものよろしきこえあるをおもひてのたまふにやとやこころらむ ものも 
難易度★★☆
(左馬頭)特に瑕ひとつない女性をえらぶには及びはしなかろうが、これはこれで捨てがたいものではないか、と言って式部を見やると、自分の姉妹たちがなかなか評判高いのを念頭にしてお言いかと受け取っているらしい、ものも言わない。

解釈の決め手

さる方にて:二通りの解釈

二通りの解釈がありえよう。「さる方」は「さある方」つまりそうある・そう認められるの意である。現代語の「それなり」は価値を低くみるが、ここは「なかなか」「相当」などのプラス評価である。今ひとつは、その方面の女として見る場合にはの意味。上々の女とはいかないが、このランクとしてはの意味。こちらの方が、「方」の意味を汲んでいると思う。

をは:さまざまな解釈

「相手の言葉に反発し、異論を差し挟む表現」、「一種の強めの意味」、「詠嘆の終助詞」などと説明される。直前の「こそ……已然形」と呼応して「AにはだめでもBならいいじゃないか」という呼応関係で、最善ではないものの次善の提案とみておく。

わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや:議論から登場人物へと視点が移動し次のステップへ

左馬頭の女性論の中で、「世にありと人に知られず…さる方にて捨てがたきものをは/02-041~02-044」は唯一好色めいたものであり、その好色性をもって妹を見られたくないという藤式部丞の心理が働いたのがこの箇所。左馬頭によって夕顔階級の女性の魅力が暗示され、藤式部丞の心の揺れによってその存在感が実体化され、これらを前置きにして、頭中将がいよいよ夕顔について語り出す。だが、光源氏はさして興味を示していない。興味を示していないからこそ、深層心理に深く刻まれて行くのだと思う。光源氏の意図しないところで、語り起こされ運命に引き込まれて行くところに物語りのダイナミズムがある。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:世に知られぬ女発言者(左馬頭)式部式部の妹

  • すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ》A
    特に瑕ひとつない女性をえらぶには及びはしなかろうが、
  • さる方にて捨てがたきものをは・とて式部を見やれば》B・C
    これはこれで捨てがたいものではないか、と言って式部を見やると、
  • わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや・とや心得らむ》D・E
    自分の姉妹たちがなかなか評判高いのを念頭にしてお言いかと受け取っているらしい、
  • ものも言はず》F
    ものも言わない。

中断型:A<B<C<[D<E<]F

  • A<B<C<[D<E<]F:A<B<C<F、D<E
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:ば…も言はず/四次

〈[女]〉すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ さる方にて捨てがたきものをは とて〈[左馬頭]〉式部を見やれ /〈[式部]〉わ(065)が066どもよろしき〈聞こえ〉あるを〈[左馬頭]〉思ひてのたまふにやや心得らむ/ 〈[式部]〉ものも言はず
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 065「わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにやとや心得らむ」(挿入):語り手による式部が「ものも言はず」の理由の推測
  • 066「妹どものよろしき聞こえある」:AのB連体形、同格の「の」(「ある」の主語は「聞こえ」、従って主格の席はなく、「の」は同格となる。)

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語彙編

すぐれて瑕なき方の選び

正妻を選ぶ際にはの意味であろう。正妻選びには家柄・権勢などの他の要素が必要である。なお、「すぐれて」は一語の副詞で、特にの意味。

おさらい

すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ さる方にて捨てがたきものをは とて式部を見やれば わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにやとや心得らむ ものも言はず

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