父の年老いものむつ 043 ★☆☆

2019-10-08★☆☆:語義の洗い直しから02 帚木

解読編

帚木 原文 現代語訳 第3章12

ちちとしいものむつかしげにふとりすぎ せうとかほにくげに おもひやりことなることなきねやうちに いといたくおもひあがり はかなくしでたることわざも ゆゑなからずえたらむかたかどにても いかがおもひのほかにをかしからざら 
難易度★☆☆
(左馬頭)父は年老い何ともぶざまに太りすぎ、男兄弟の顔は憎々しげで、特別な思いを受けて育ったのでもない閨の中で、何ともえらく気位を高くし、気軽にやってみせた諸芸などでも、格式こそないながら才能の片鱗でもうかがわせるなら、どうして予想外に興味を引かれずにおれましょう。

解釈の決め手

思ひやり:特別な結婚相手に思いを馳せる

「思ひあがり」と呼応する。特別な相手に娶せようとの意図を持って育てること。親兄弟にはそういう意図がないながら。

思ひあがり:日嗣の御子の母になる

気位の高さを意味するが、狭義では「はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々/01-002」でみたように、女御くらすでは帝の正妻となって儲けの君を宿す気構えでいることを意味し、ここでも宮仕えをして貴人の世継ぎを身ごもる気持ちでいることを指す。男は出自から出世のできる地位が決まっていたが、女性の場合は婿の地位いかんで出自の壁を破ることができた。出自より高い地位にゆくのだという気の張り方と解釈してもよいだろう。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:娘の家族・家発言者(左馬頭)

  • 父の年老いものむつかしげに太りすぎ・兄の顔憎げに》A・B
    父は年老い何ともぶざまに太りすぎ、男兄弟の顔は憎々しげで、
  • 思ひやりことなることなき閨の内に》C
    特別な思いを受けて育ったのでもない閨の中で、
  • いといたく思ひあがり》D
    何ともえらく気位を高くし、
  • はかなくし出でたることわざも・ゆゑなからず見えたらむ片かどにても》E・F
    気軽にやってみせた諸芸でも、格式は認められないながら才能の片鱗でもうかがわせるなら、
  • いかが思ひの外にをかしからざらむ》G
    どうして予想外に興味を引かれずにおれましょう。

分岐型:A+B<C<D<E<F<G

  • A+B<C<D<E<F<G:A+B<C<D<E<F<G
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:いかが…にをかしからざらむ/五次

063〉の年老いものむつかしげに太りすぎ 〈兄〉の顔憎げに 〈思ひやり〉ことなることなき閨の内 〈[女]〉いといたく思ひあがり 064かなくし出でたる〈ことわざ〉も ゆゑなからず見えたらむ〈片かど〉にても 〈[発言者]〉いかが思ひの外にをかしからざらむ
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • ここまでの議論では、家族・父・娘を一律に見て来たが、ここでは家族と娘を切り離して考える視点に立っている。これもまた、これまでの発言者を頭中将とし、この発言者を左馬頭とする読みを支持するように思う。
  • 063「父の年老いものむつかしげに太りすぎ」「兄の顔憎げに」:並列
  • 064「はかなくし出でたることわざも」「ゆゑなからず見えたらむ片かどにても」:言い換え

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語彙編

ものむつかしげ

何とも見た目が悪い様。

顔にくげ

憎憎しい面構え。このあたりも実話というより、昔物語風。

はかなくし出でたる

なにげなくやって見せる。

ゆゑなからず

由緒や格式あるものではないものの。

片かど

才能の片鱗の意味。雨夜の品定めでは、主に手紙の書き方や琴や笛などの芸事に使用される。頭中将は、生涯頼みとする女性を選ぶ基準として「片かど」は不要とするが、左馬頭は遊び相手として「片かど」を捨てがたく肯定的に捉えている。

おさらい

父の年老い ものむつかしげに太りすぎ 兄の顔憎げに 思ひやりことなることなき閨の内に いといたく思ひあがり はかなくし出でたることわざも ゆゑなからず見えたらむ片かどにても いかが思ひの外にをかしからざらむ

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