やむごとなくせちに 013
解読編
目次
帚木 原文 現代語訳 第2章05
やむごとなくせちに隠したまふべきなどは かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず 深くとり置きたまふべかめれば 二の町の心安きなるべし
難易度☆☆☆
難易度☆☆☆
相手が尊くてどうしてもお隠しになるべき手紙などは、このように大雑把なものである厨子などに、置き放し人目にさらしておおきになるはずもなく、奥の方に取ってお置きでしょうから、二流どこの見られて平気なものなのでしょう、
解釈の決め手
やむごとなくせちに隠したまふべきなど:ドラマチック・アイロニー
これは六条の御息所の手紙や、特に藤壺の宮の手紙を示唆する。もちろんそれらの女性と光源氏が道ならぬ恋にあることを、頭中将は何も知らない。しかし、主人公はもちろんのこと聞き手もその関係性を知っているために、頭中将の言葉に別の意味が加わってくる。頭中将は無自覚であるだけに、平気で光源氏の心の中に土足で踏み込んでくるところにドラマ性が生じる。これをドラマチック・アイロニーと呼ぶ。頭中将は、狂言回しの役を宛てがわれる一方で、光源氏の心の暗部を照らす役割をし、また「中の品」の女性に対する道を開く[補02-001]参照。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:光源氏/この場にある手紙
- 《やむごとなくせちに隠したまふべきなどは》A
相手が尊くてどうしてもお隠しになるべき手紙などは、 - 《かやうにおほぞうなる御厨子などに うち置き散らしたまふべくもあらず》B
このように大雑把なものである厨子などに、置き放し人目にさらしておおきになるはずもなく、 - 《深くとり置きたまふべかめれば・二の町の心安きなるべし》C・D
奥の方に取ってお置きでしょうから、二流どこの見られて平気なものなのでしょう、
分岐型:A<(B<)C<D
- A<(B<)C<D:A<C<D、B<C
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:ば二の町の心安きなるべし/三次
/〈[光源氏]〉やむごとなくせちに隠したまふべき〈など〉は @かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず@ 深くとり置きたまふべかめれば 〈[この場の手紙]〉二の町の心安きなるべし/
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 「べくもあらず」は同色でよいが、挿入の出口で色を合わせるために、色分けした。
- 023「やむごとなく…二の町の心安きなるべし」(挿入):頭中将が見る手紙に対するコメント。
- 024「かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず」→「深くとり置きたまふべかめれ(ば)」:「二の町の心安きなるべし」と語り手が判断する理由。
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語彙編
おほぞうなる
そこらにあるの意味。具体的には御厨子のような簡単に引き出せる隠し場所。
二の町
一流の相手ではないとの意味。
おさらい
やむごとなくせちに隠したまふべきなどは かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず 深くとり置きたまふべかめれば 二の町の心安きなるべし
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