慰むやとさるべき人 128 ★★☆

2019-09-25★★☆:文の構造を捉え直す01 桐壺

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第9章02

なぐさむやとさるべきひとびとまゐらせたまへ  なずらひにおぼさるるだにいとかたきかなと うとましうのみよろづにおぼしなりぬるに 先帝せんだいみやの おん容貌かたちすぐれたまへる こえたかくおはします ははきさきになくかしづききこえたまふ  主上うへにさぶらふ典侍ないしのすけは 先帝せんだいおほむときひとにて かのみやにもしたしうまゐれたりけれ  いはけなくおはしまししときよりたてまつり いまもほのたてまつりて せたまひにしやすどころおん容貌かたちたまへるひとを みやづかへにたはりぬるに えたてまつりつけぬを きさいみやひめみやこそいとようおぼえて でさせたまへりけ  ありがたきおん容貌かたちびとになむ とそうしけるに まことに こころとまりて ねむごろにこえさせたまひけ  難易度★★☆
慰めになろうかと、夫人にふさわしい方々をお召しになるが、比べてみるお気持ちになる人さえ全く見つからぬ世の中であると、疎ましいとばかり万事をお考えになっておいででしたが、先帝に四の宮は、美貌にすぐれ、世評も高く、母の后がこよなく大切にお育てになお方ですがそれを、帝に仕える典侍は先帝の御代からの女房で、四の宮のもとへも親しく通い馴れていたので、幼い時分よりお見かけし、昨今も物越しながらしかとお見受けして来てところなので、お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の宮仕えを過ごしてまいりながらいっこうにお見受けしたこともございませんが、后の宮のお姫さまこそまことに生き写しのお姿にご成長なさいました。類なきお顔立ちのお方でと奏上したところ、本当だろうかと御心に留まり人を立て懇ろに入内をお勧め申し上げた。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:先帝の四の宮(藤壺の宮)母后(藤壺の母)典侍桐壺更衣

  • 慰むやとさるべき人びと参らせたまへど・なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに》A・B
    慰めになろうかと、夫人にふさわしい方々をお召しになるが、比べてみるお気持ちになる人さえ全く見つからぬ世の中であると、疎ましいとばかり万事をお考えになっておいででしたが、
  • 先帝の四の宮の・御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを》C・D
    先帝に四の宮は、美貌にすぐれ、世評も高く、母の后がこよなく大切にお育てになお方ですがそれを、
  • 主上にさぶらふ典侍は・先帝の御時のひとにて かの宮にも親しう参り馴れたりければいはけなくおはしましし時より見たてまつり》E・F
    帝に仕える典侍は先帝の御代からの女房で、四の宮のもとへも親しく通い馴れていたので、
  • 今もほの見たてまつりて》G
    幼い時分よりお見かけし、昨今も物越しながらしかとお見受けして来てところなので、
  • 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを》H
    お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の宮仕えを過ごしてまいりながらいっこうにお見受けしたこともございませんが、
  • 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ・と奏しけるに》I・J
    后の宮のお姫さまこそまことに生き写しのお姿にご成長なさいました。類なきお顔立ちのお方でと奏上したところ、
  • まことにやと御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり》K
    本当だろうかと御心に留まり人を立て懇ろに入内をお勧め申し上げた。

分岐型:A<B<(C<D<(E<F)<G<(H<I<))J<K

  • A<B<(C<D<(E<F)<G<(H<I<))J<K:A<B<J<K、C<D<G<J、E<F<G、H<I<J
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:に…やと…とまりて…聞こえさせたまひけり/五次

〈[帝]〉慰むやとさるべき人びと207らせたまへ なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬる @208帝の四の宮の 209容貌〉すぐれたまへる 〈聞こえ〉高くおはします 210后〉世になくかしづききこえたまふ 主上にさぶらふ〈典侍〉は 211帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりけれ 212はけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる 三代の宮仕へに伝はりぬる 213見たてまつりつけぬを 后の宮の〈姫宮〉こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しける まことにやと〈御心〉とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 「疎ましうのみよろづに思しなりぬるに…と奏しけるに まことにやと御心とまりて…」「先帝の四の宮…を 主上にさぶらふ典侍は 今もほの見たてまつりて…と奏しける」が大きな構造
  • 207「参らせたまへど」→「疎ましうのみよろづに思しなりぬるに」→「典侍…と奏しけるに」→「御心とまりて…聞こえさせたまひけり」
  • 208「先帝の四の宮の…たまへる…おはします…きこえたまふ」:同格「の」+連体形+連体形+連体形
  • 209「御容貌すぐれたまへる」「聞こえ高くおはします」「母后世になくかしづききこえたまふ」(並列)「主格の名詞(主格の格助詞の省略)+連体格」→「を」
  • 210「母后世になくかしづききこえたまふを」→「今もほの見たてまつり」→「奏しける」
  • 211「先帝の御時の人にて…参り馴れたりければ」→「今もほの見たてまつりて」
  • 212「いはけなくおはしましし時より見たてまつり」「今もほの見たてまつりて」→「奏しける」
  • 213「え見たてまつりつけぬを」→「いとようおぼえて」

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 慰むさるべき人びと参らたまへ なずらひ思さるるだにいとかたき世かな 疎ましうのみよろづに思しなりぬる 先帝四の宮 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふ 主上さぶらふ典侍 先帝御時 か親しう参り馴れたりけれ いはけなくおはしましより見たてまつり 今ほの見たてまつり 亡せたまひにし御息所御容貌似たまへ 三代宮仕へ伝はりぬる え見たてまつりつけ 后の宮姫宮こそいとようおぼえ 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ 奏しける まことに御心とまり ねむごろに聞こえさせたまひけり
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 慰むやとさるべき人びと参らたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし息所の容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき容貌人になむ と奏しけるに まことにやと、心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

さるべき人びと

帝(自分)の夫人として相応しい人、生まれ・教養・美貌など。

なずらひに思さるる

桐壺更衣と比較するに足る。「思さる」は帝自身の自敬表現。「る」は自発。

先帝

一院と先帝とどちらが前であるか議論が分かれているが、先帝の時から三代の宮仕えとあるので、先帝・一院・桐壺帝の順であろう。

ほの見たてまつり

「ほの」は関心があるが、情報が少なく、もっと知りたい、見たいという興味がわく対象。

おぼえ

藤壺が桐壺更衣に似ている。

生ひ出でさせたまへりけれ

「生ひ出づ/成長する、具体的には帝の夫人たる年齢に達していること)+「させたまふ/最高敬語)+「けり」。

まことにや

「まことに」と「や」の間に、「おぼえて生ひ出でさせたまへりける」が省略されている。

ねむごろに聞こえさせたまひけり

後宮に参内するよう心を込めて働きかけるよう帝は指示なされたこと。

おさらい

慰むやとさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにやと、御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり

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