明くる年の春 坊定 108

2019-10-10☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺,06 時間/時刻・昼夜・季節・時代,分配型

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第8章03

くるとしはる ばうさだまりたまふにも いとさまほしうおぼせど おんうしろすべきひともなく またのうけひくまじきこ なりければ なかなかあやふおぼはばかりて いろにもださせたまはずなりぬる  さばかりおぼしたれど かぎりこそありけれと ひとこえにようこころちゐたまひ  難易度☆☆☆
明くる年の春東宮がお決まりになる際にも、どうかして第一皇子を飛び越しこの宮を立てたいとお望みになるが、生涯の後見役にかなう人物もまだなくまた世間がうけがうはずもなかったので、これではかえって身が危ういと察知され人目を憚りおくびにも出さなくなってしまわれたところ、あれほど大事になさってはいても決まりには勝てぬのだと、世間も噂し弘徽殿の女御も安堵されるのでした。

解釈の決め手

色にも出ださせたまはずなりぬる:これまで色に出してきた裏返し

光の君の皇太子擁立をおくびにも出さなくなった。これは裏返せば、これまでにも、公言しないまでもそうしたニュアンスを周囲に漏らしていたことを意味する。これは物語の背景を決定づける重要箇所である。弘徽殿の女御や父の右大臣が気を揉んだことも無理はない。また誰のさしがねかは不明ながら、桐壺の早すぎる死も皇太子を競う中で起こった事件との解釈が行き過ぎではない証左ともなろう。周囲がその情報を得ていたからこそ、「さばかり思したれど」という指示語が生きてくるのだ。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:東宮後見人世間越えられない限界弘徽殿の女御

  • 明くる年の春 坊定まりたまふにも・いと引き越さまほしう思せど》A・B
    明くる年の春東宮がお決まりになる際にも、どうかして第一皇子を飛び越しこの宮を立てたいとお望みになるが、
  • 御後見すべき人もなく・また世のうけひくまじきことなりければ・なかなか危く・思し憚りて・色にも出ださせたまはずなりぬるを》C・D・E・F・G
    生涯の後見役にかなう人物もまだなくまた世間がうけがうはずもなかったので、これではかえって身が危ういと察知され人目を憚りおくびにも出さなくなってしまわれたところ、
  • さばかり思したれど・限りこそありけれと・世人も聞こえ・女御も御心落ちゐたまひぬ》H・I・J・K
    あれほど大事になさってはいても決まりには勝てぬのだと、世間も噂し弘徽殿の女御も安堵されるのでした。

分岐型・中断型・分配型:A<B<(C+D<E<)F<G<(H<I<)J|*G<K

  • A<B<(C+D<E<)F<G<(H<I<)J|*G<K:A<B<F<G<J、*G<K、C+D<E<F、H<I<J
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:を…と…も聞こえ|…も御心落ちゐたまひぬ/五次

明くる年の春 〈坊〉定まりたまふにも 〈[帝]〉179引き越さまほしう思せ 御後見すべき〈人〉もなく また世のうけひくまじき〈こと〉なりけれ なかなか危く@思し憚りて 180にも出ださせたまはずなりぬる さばかり思したれど 〈限り〉こそありけれ 〈世人〉も聞こえ〈女御〉も御心落ちゐたまひぬ
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 179「いと引き越さまほしう思せど」→「思し憚りて色にも出ださせたまはずなりぬる(を)」
  • 180「色にも出ださせたまはずなりぬるを」→「世人も聞こえ女御も御心落ちゐたまひぬ」

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 明くる年春 坊定まりたまふ いと引き越さまほしう思せ 御後見すべきなく また世うけひくまじきことなりけれ なかなか危く思し憚り 色出ださたまはなりぬる さばかり思したれ 限りこそありけれ 世人聞こえ女御御心落ちゐたまひ
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 明くる年の春 坊定まりたまふにも いと引き越さまほしう思せど 後見すべき人もなく また世のうけひくまじきことなりければ なかなか危く思し憚りて 色にも出ださせたまはずなりぬるを さばかり思したれど 限りこそありけれと 世人も聞こえ女御も心落ちゐたまひ
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

明くる年の春

光の君四歳の春。

坊定まりたまふにも

皇太子が冊立される際にも。皇太子が決まらないという政治的不安定にようやく終止符がうたれる。

ひき越さまほしう

一の宮でなく次男の光の君を皇太子に立てるの意味。

うけひく

積極的に賛成する。

なかなか危く思し

光の君を皇太子に立てるのはかえって危険だとお思いになって。形容詞の連用形+思う。

さばかり

そのようにばかり。光の君の皇太子に立てると口にするなど、光の君のことばかりお考えだったけれど。

限り

限度。できることとできないことの境。

御心落ちゐ

自分の第一皇子が皇太子になることで心が落ち着く。

おさらい

明くる年の春 坊定まりたまふにも いと引き越さまほしう思せど 御後見すべき人もなく また世のうけひくまじきことなりければ なかなか危く思し憚りて 色にも出ださせたまはずなりぬるを さばかり思したれど 限りこそありけれと 世人も聞こえ女御も御心落ちゐたまひぬ

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