さるべき契りこそは 105

2019-10-10☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第7章25

さるべきちぎりこそはおはしましけ  そこらのひとそしうらみをもはばからせたまはず このおんことにれたることをばだうをもうしなはせたまひ いまはたかくなかのことをもおもほしてたるやうになりゆく  いとたいだいしきわざな と ひと朝廷みかどためしまでで ささめきなげきけ  難易度☆☆☆
(側仕えから離れると)こうなる因縁が前世にあったのだろうが、周囲の誹り恨みも遠慮なさらず、あの方のこととなると見境もなくし、今ではもうこんな風に国政への関心まで投げ出しておしまいでは、どんな災いを招くことやらと、異国の朝廷の例まで引き合いにしてひそめき嘆くのです。

解釈の決め手

人の朝廷の例まで引き出で:皇統分裂の危機

「人の朝廷の例」は「楊貴妃の例/01-005」のこと(具体的には安禄山の乱(安禄山は反乱を起こし、大燕皇帝として即位)のことで、わが国で同様な反乱が起これば、皇統が二分されることになる国の非常事態となる)。今までは「引き出でつべく(持ち出されかねない)/01-005」状況止まりであったのが、ここで初めて実際に引き合いに出されたことになる。もっとも、この嘆きの中で「さるべき契りこそは……思ほし捨てたるやうになりゆく」は帝の説明であり、他国の朝廷の例を暗示させるのは「いとたいだいしきわざなり」とあるだけで、詳細は不明である。直説法で帝を批判することは、物語の中でも困難であった。「いづれの御時にか/01-001」で帝の名を匿名にしたこととも関わる王朝人の意識であろう。

ここがPoint

人前では憚られること

「嘆きけり」の主語はない。「陪膳にさぶらふ限りは…嘆く/01-103」「近うさぶらふ限りは…嘆く/01-104」と対比的である。となれば、「嘆きけり」の主体は男でも女でも「さぶらふ限り」でない時、すなわち陰口として言ったと考えられよう。「たいだいしきわざなり」とは帝の前で口に出せる言葉ではない。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:他の女御・更衣桐壺更衣を指す(忠臣の嘆息)

  • さるべき契りこそはおはしましけめ A
    こうなる因縁が前世にあったのだろうが、
  • そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず》B
    周囲の誹り恨みも遠慮なさらず、
  • この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ》C
    あの方のこととなると見境もなくし、
  • 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは》D
    今ではもうこんな風に国政への関心まで投げ出しておしまいでは、
  • いとたいだいしきわざなり》E
    どんな災いを招くことやらと、
  • 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり F
    異国の朝廷の例まで引き合いにしてひそめき嘆くのです。

分岐型:(A<B+C+D<E<)F

  • (A<B+C+D<E<)F:A<B+C+D<E<F
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:と…まで引き出でささめき嘆きけり/四次

〈[帝]〉178るべき〈契り〉こそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆく〈[の]は〉 いとたいだいしきわざなりと@ 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 178「さるべき契りこそはおはしましけめ」:「こそ…已然形」の挿入は譲歩構文を導く

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • さるべき契りこそおはしましけめ そこら誹り恨み憚らたまは こ御こと触れたること道理失はたまひ 今はたかく世こと思ほし捨てたるやうなりゆく いとたいだいしきわざなり 人朝廷まで引き出で ささめき嘆きけり
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • さるべき契りこそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず このことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは いとたいだいしきわざなりと 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

そこら

多くの。

道理をも失はせたまひ

具体的には弘徽殿の女御より桐壺更衣を大切にしてきたことや、さして身分の高くない更衣が一人亡くなっただけなのに尋常でない悲しみにくれている様子が理解できない。

かく

「朝政は怠らせたまひぬべかめり/01-102」やその後の食事に関心が無くなることを受ける。

世の中のこと

公的面では朝政、私的面では食欲、また「御方がたの御宿直なども絶えてしたまはず/01-047」とあり、性欲も失った状態で、桐壺の魂を求め、この世のことに関心が薄れてきていることを表す。

たいだいしき

道がでこぼこで難儀する感覚で、先行きの困難さ。

わざ

もともと神意を意味し、ここでは計り知れない帝の御心とのニュアンス。

おさらい

さるべき契りこそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは いとたいだいしきわざなりと 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり

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