風の音虫の音につけ 095
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第7章15
風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに 弘徽殿には久しく上の御局にも参う上りたまはず 月のおもしろきに夜更くるまで 遊びをぞしたまふなる
難易度☆☆☆
風の音虫の音を聞くにつけて、帝はこの宿命のことばかりを悲しくお思いなのに、弘徽殿の女御ときては久しく上の御局にも上がらず、月のうつくしさにかこつけ、夜が更けるまで管絃の遊びをなさっている音がする。
解釈の決め手
上の御局
帝の普段生活される部屋が清涼殿。その北東の隅に弘徽殿の女御用の上の御局がある。帝の政務は基本昼で終わる。午後から帝は女御・更衣の部屋へゆき、夜は女御・更衣が帝のもとに上がるのが一般則である。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:帝/弘徽殿の女御
- 《風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに》 A
風の音虫の音を聞くにつけて、帝はこの宿命のことばかりを悲しくお思いなのに、 - 《弘徽殿には久しく上の御局にも参う上りたまはず》B
弘徽殿の女御ときては久しく上の御局にも上がらず、 - 《月のおもしろきに 夜更くるまで遊びをぞしたまふなる》 C
月のうつくしさにかこつけ、夜が更けるまで管絃の遊びをなさっている音がする。
直列型:A<B<C
- A<B<C:A<B<C
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:に…まで…をぞしたまふなる/三次
〈[帝]〉風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに 〈弘徽殿〉には久しく上の御局にも参う上りたまはず 月のおもしろきに 夜更くるまで 遊びをぞしたまふなる
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 171「思さるるに」→「したまふなる」
- 172「月のおもしろきに」:「に」は「月の美しさを理由に」と考え格助詞としたが、一般的には「月がうつくしいので」と訳し接続助詞と考える。文体の簡潔さから前者としたに過ぎない。
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- 風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに 弘徽殿には久しく上の御局にも参う上りたまはず 月のおもしろきに夜更くるまで 遊びをぞしたまふなる
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- 風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに 弘徽殿には久しく上の御局にも参う上りたまはず 月のおもしろきに夜更くるまで 遊びをぞしたまふなる
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
もの
運命、動かしがたい事実。
なる
伝聞の助動詞。
おさらい
風の音虫の音につけて もののみ悲しう思さるるに 弘徽殿には久しく上の御局にも参う上りたまはず 月のおもしろきに夜更くるまで 遊びをぞしたまふなる
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