生まれし時より思ふ 069 ★☆☆
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第6章05
生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
難易度★☆☆
生まれた時から望みをかけてきた娘で、父の亡き大納言が今際(いまわ)の際まで、ただこの人を宮仕えへに出す宿願必ず遂げて差し上げよ。私が亡くなったとて不甲斐なく節を曲げてはならないと、返す返す諌めおかれましたから、
解釈の決め手
思ふ心:桐壺の父の野望
娘を宮仕えに出し、帝の寵愛をえて家を復興し、あたうべくば次期帝の外祖父になるという夢。父の野望。
この人の宮仕への本意:桐壺の宿願
「この人」は桐壺更衣。「遂げさせたてまつれ」とあるので、父の思いではない。「宮仕への本意」は、宮仕えにでる宿願でなく、宮仕えを続けて帝の子を儲けたいという宿願である。桐壺は強い個性が見られないので、そうした本意がないようにも思えるが、前世からの契りも深く、決して帝の思いを受けるのみではない。積極的に帝への思いもあるのである。
遂げさせたてまつれ:父の遺言
父の遺言である本意を遂げさせるとは、宮仕えに出すことではなく、宮仕えを続けた結果帝の子を儲ける願いを中途半端に終わらせるなというもの。「させ」は使役で対象は「娘」、「たてまつる」は使役の対象である娘に対する敬意。父の思いではなく、娘の思いを遂げさせるのである。「故大納言の遺言あやまたず宮仕への本意深くものしたりしよろこびは/01-088」とあるのも同じで、桐壺が帝に対する一途な思いに対する返礼。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:桐壺更衣/故大納言(桐壺更衣の父君)/母君
- 《生まれし時より思ふ心ありし人にて》A
生まれた時から望みをかけてきた娘で、 - 《故大納言いまはとなるまでただ》 B
父の亡き大納言が今際(いまわ)の際まで、 - 《この人の宮仕への本意かならず遂げさせたてまつれ》 C
ただこの人を宮仕えへに出す宿願必ず遂げて差し上げよ。 - 《我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと》 D
私が亡くなったとて不甲斐なく節を曲げてはならないと、 - 《返す返す諌めおかれはべりしかば》E
返す返す諌めおかれましたから、
分岐型:A<B<(C<D<)E
- A<B<(C<D<)E:A<B<E、C<D<E
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:まで…と…諌めおかれはべりしか(ば)/四次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 123「故大納言いまはとなるまでただ」→「返す返す諌めおかれはべりしかば」
- 124「諌めおかれはべりしかば」→「出だし立てはべりし/01-070」
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- 生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- 生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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おさらい
生まれし時より思ふ心ありし人にて 故大納言いまはとなるまで ただこの人の宮仕への本意 かならず遂げさせたてまつれ 我れ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるなと 返す返す諌めおかれはべりしかば
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