若き人びと 悲しき 079 ★☆☆
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第6章15
若き人びと 悲しきことはさらにも言はず 内裏わたりを朝夕にならひていとさうざうしく 主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど
難易度★☆☆
宮中から従い来た若い女房たちは、悲しいことは言うまでもないが、宮廷生活が朝な夕なに身にしみついているために、鄙びた暮らしがとても寂しく、帝のご様子などを思い出しては、参内なさるよう宮にお勧め申し上げるが、
解釈の決め手
ならひて:地味な田舎暮らし
慣れる。宮中の暮らしに慣れているので、草深い里暮らしがつまらないのであろう。
いとさうざうしく…思ひ出できこゆれ:きらびやかな宮廷生活
「さうざうし」はあるはずのものがなくなった喪失感からくる寂しさ、索漠とした感覚。宮廷生活に慣れていた若い女房たちには鄙の暮らしが寂しくてならない。思い出すのは宮中の贅美を極めた暮らしぶりであり、帝の権勢である。それらを若宮の脳裏にふきこみ、早く宮中に戻るように勧めるのだ。むろん自分たちが早く戻りたいからでもある。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:若き人びと(宮中から従い来た光源氏付きの女房)/帝/光源氏
- 《若き人びと》A
宮中から従い来た若い女房たちは、 - 《悲しきことはさらにも言はず》B
悲しいことは言うまでもないが、 - 《内裏わたりを朝夕にならひて・いとさうざうしく》C・D
宮廷生活が朝な夕なに身にしみついているために、鄙びた暮らしがとても寂しく、 - 《主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば》E
帝のご様子などを思い出しては、 - 《とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど》 F
参内なさるよう宮にお勧め申し上げるが、
中断型:A<[B<]C<D<E<F
- A<[B<]C<D<E<F:A<C<D<E<F、B
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:ば…をそそのかしきこゆれ(ど)/三次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 「思ひ出できこゆれ」:「きこゆれ」(補助動詞)は帝に対する対象敬語(謙譲語)
- 「そそのかしきこゆれ」:「きこゆれ」(本動詞)は若宮に対する対象敬語(謙譲語)
- 148「悲しきことはさらにも言はず」:挿入
- 149「内裏わたりを朝夕にならひて」(原因)→「いとさうざうしく」(結果)
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- 若き人びと 悲しきことはさらにも言はず 内裏わたりを朝夕にならひて いとさうざうしく主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば とく参りたまはむことを そそのかしきこゆれど
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- 若き人びと 悲しきことはさらにも言はず 内裏わたりを朝夕にならひて いとさうざうしく主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば とく参りたまはむことを そそのかしきこゆれど
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
若き人びと
光の君の里下がりに伴い、宮中から従い来た若い女房たち。
さらにも言はず
殊更言うことはない。言うまでもないがの意味。里を離れる寂しさは言うまでもないことだが。
そそのかしきこゆれ
若宮に参内を勧める。後ろとのつながりでは母君に参内を勧めたとも考えられそうだが、ここは母君の立ち場に立った語りだから「とく参りたまはむ」は母君自らではありえない。やはり若君をそそのかしたと考えるしかない。
おさらい
若き人びと 悲しきことはさらにも言はず 内裏わたりを朝夕にならひていとさうざうしく 主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど
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