参りては いとど心 057

2019-10-02☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第5章08

まゐりては いとどこころぐるしう こころぎもくるやうになむと ないしのすけそうしたまひしを ものおもうたまへらぬここにも げにこそいとしのびがたうはべりけれと  ややためらひて おほごとつたへきこ 
難易度☆☆☆

お訪ねしましてはますます心が痛み魂も消え入りそうでと、以前典侍が奏上なさっていましたが、情理にうといふつつか者にも、全くもって忍びがたかろうと存じますと言い、しばし心を静めてから、命婦は帝の仰せごとをお伝え申し上げる。

解釈の決め手

典侍の奏したまひしを:間接ドラマ

省略されているが、すでに典侍が母君の元を訪れ、その時の模様を帝に報告している。その復命の言葉を命婦は聞いていたとの設定。省略は源氏物語の重要な技法のひとつ。あなたのような立派なお方が来られては「恥ずかしい」と言って、母君が距離を置こうとしたのに対して、それは取り合わず、まったく耐え難いことですねと同情から入って、帝の言葉を伝える。「を」は一般に接続助詞とされるが、詠嘆を表す間助詞とも考え得る。その方が「げにこそ」の感動が意味をなす。また接続がはっきりしないことからも、間助詞を支持する。

ためらひ:間合い

感情を抑制すること。「ため」を作った後に。はやる気持ちを押さえるの意。命婦は勅使であり、感情に走る母君とは別の立場にある。ここの場面は一種の性格喜劇となっていて、冷静な人と感情的な人とが、ついに折り合わず別れることになる。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:典侍(命婦以前の勅使)命婦

  • 参りてはいとど心苦しう心肝も尽くるやうになむと・典侍の奏したまひしA・B
    お訪ねしましてはますます心が痛み魂も消え入りそうでと、以前典侍が奏上なさっていましたが、
  • もの思うたまへ知らぬ心地にも・げにこそいと忍びがたうはべりけれとて C・D
    情理にうといふつつか者にも、全くもって忍びがたかろうと存じますと言い、
  • ややためらひて 仰せ言伝へきこゆE
    しばし心を静めてから、命婦は帝の仰せごとをお伝え申し上げる。

分岐型:A<B<(C<)D<E

  • A<B<(C<)D<E:A<B<D<E、C<D
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:とて…ためらひて…伝へきこゆ

参りては いとど心苦しう 心肝も尽くるやうになむ 〈典侍〉の103したまひし もの思うたまへ知らぬ心地にも げにこそいと忍びがたうはべりけれとて 〈[命婦]〉ややためらひて 仰せ言伝へきこゆ
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 103「奏したまひしを」→「げにこそいと忍びがたうはべりけれ」

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 参り いとど心苦しう 心肝尽くるやうなむ 典侍奏したまひ もの思うたまへ知ら心地 げにこそいと忍びがたうはべりけれ ややためらひ 仰せ言伝へきこゆ
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 参りては いとど心苦しう 心肝も尽くるやうになむと 典侍の奏したまひしを もの思うたまへ知らぬ心地にも げにこそいと忍びがたうはべりけれとて ややためらひて 仰せ言伝へきこゆ
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

もの思うたまへ知らぬ

「もの」は世情。自分の守備範囲にない点で「もの」と言い表されている。世情に疎い身ながら。

忍びがたうはべりけれ

帝の世継ぎを産みながら、親に先立ち娘を失った境遇は。

おさらい

参りては いとど心苦しう 心肝も尽くるやうになむと 典侍の奏したまひしを もの思うたまへ知らぬ心地にも げにこそいと忍びがたうはべりけれとて ややためらひて 仰せ言伝へきこゆ

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