やもめ住みなれど  054 ★★☆

2019-09-29★★☆:文の構造を捉え直す01 桐壺,05 空間/天候・風景・自然・環境,06 時間/時刻・昼夜・季節・時代

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第5章05

やもめみなれど ひと一人ひとりおんかしづきに とかくつくろひてて めやすきほどにて ぐしたまひつる やみれてしづみたまへるほどに くさたかくなり わきにいとどれたるここして つきかげばかりぞ むぐらにもはらずりた 
難易度★★☆

母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。

解釈の決め手

闇に暮れて:変わるもの

桐壺更衣が亡くなった現在の様子。過去および月影と対比されている。心象風景と外界の境界が解け合っている。

月影ばかり:変わらざるもの

草深くなる前と変わりなく、今も昔も月の光は届く。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:桐壺更衣の母桐壺更衣命婦(語り手の推定)里の様子

  • やもめ住みなれど A
    母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、
  • 人一人の御かしづきにとかくつくろひ立てて・めやすきほどにて過ぐしたまひつるB・C
    娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、
  • 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに・草も高くなり野分にいとど荒れたる心地してD・E
    娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、
  • 月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたるF
    月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。

分岐型・中断型:A<B+C<|D<E<F<|

  • A<B+C<|D<E<F<|:A<B+C、D<E<F
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:ど…に…つくろひ立てて…にて過ぐしたまひつる/二次|に…も高くなり…に…心地して…ばかりぞ…差し入りたる/二次|

〈[母君]〉097もめ住みなれ 098一人[=桐壺更衣]の御かしづきとかくつくろひ立てて めやすきほどにて過ぐしたまひつる 099に暮れて臥し沈みたまへるほど 〈[家の様]〉〈草〉も高くなり野分いとど荒れたる心地して 〈月影〉ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 「過ぐしたまひつる」と「差し入りたる」ともに連体中止系で対句になっている。の関係性が不明である。「つ」が完了、「たり」が継続。二つの助動詞により、過去と現在の対比が鮮やかになされている。
  • 097「やもめ住みなれど…過ぐしたまひつる」「闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに…月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる」:桐壺更衣の死以前と以後の対比
  • 098「人一人の御かしづきにとかくつくろひ立てて」「めやすきほどにて過ぐしたまひつる」:並列
  • 099「闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに」→「いとど荒れたる心地して」→「月影ばかりぞ…差し入りたる」

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • やもめ住みなれ 人一人御かしづき とかくつくろひ立て めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 暮れ臥し沈みたまへほど 草高くなり 野分いとど荒れたる心地し 月影ばかり 八重葎障はら差し入りたる
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • やもめ住みなれど 人一人のかしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

やもめ住み

「父の大納言は亡くなりて/01-006」とある。

人一人の御かしづき

桐壺更衣のこと。

とかくつくろひ立てて

あれこれと装いを凝らして。

めやすき

見た目が感じよい。洗練されている。

過ぐしたまひつる

お過ごしになってきた。ここまでは桐壺更衣の生前の様子を忍んでいる。

いとど荒れたる

母君の家の庭のようすだが、母君の心象風景にもなっている。

おさらい

やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる

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