若宮はいかに思ほし 064

2019-10-01☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第5章15

わかみやはいかにおもほしるにか まゐりたまはむことをのみなむおぼいそぐめれば ことわりにかなしうたてまつりはべるな  うちうちにおもうたまふるさまをそうしたまへ ゆゆしきにはべれば かくておはしますもましうかたじけなくなむ とのたま 
難易度☆☆☆

命の長さが大層つらく思い知られるにつけ、高砂の松がわたくしをどう見るか想像してさえ居たたまれませんのに、百官集う宮中に出入りするなどはまして憚り多いことで、かしこき仰せ言を度たび承りながら、わたくし自身はいかにしても、参内を思い立てそうにございません。若宮はどのようにしてお知りになってか、宮中に参ることばかりを願われご準備なさっておいでの様子ですので、そうなさるのが道理ながら悲しくお見受けいたしておりますことなど、心の中で考えていることなどを内々にご奏上ください。(娘に先立たれた)不吉な身でありますれば、このまま宮がここにあそばされるのも忌まわしく恐れ多いことで、と母北の方はおっしゃる。

解釈の決め手

百敷:掛詞風

百敷は内裏、宮中の言い換え。百敷の百は百歳を暗示させる。

行きかひ:人交わり

百敷と里を行き交うのではなく、百敷(後宮)の中を行き交う。即ち、宮仕えをすること。帝から宮中に呼ばれることは、女官として働くことを意味する。

いかに思ほし知るにか:宮中からの派遣女房の存在

「参りたまはむことをいかに思ほし知るにか」の倒置。光の君が里下がりするについては、内裏から女房や乳母が付き添っているはずで、そうした者たちは、内裏を懐かしがって、早くお帰りなさいと光の君に勧めたことが容易に想像される。

うちうちに:秘密裏に

光源氏が宮中に戻ることは皇太子候補が一人増えることになるので、帰還したあとの準備を内密に行う必要がある。

解析編

述語句・情報の階層・係り受け

構文:のたまふ/五次

〈[母君]〉命長さのいとつらう思うたまへ知らるる 松の思はむことだに恥づかしう思うたまへはべれ 117敷に行きかひはべらむ〈こと〉はましていと憚り多くなむ かしこき仰せ言たびたび承りながら みづからはえなむ思ひたまへたつまじき 〈若宮〉は118かに思ほし知るにか 参りたまはむことをのみなむ118し急ぐめれ 〈[私=母君]〉ことわりに悲しう見たてまつりはべるなど うちうちに思うたまふるさまを[命婦よ]奏したまへ ゆゆしき身にはべれ 119くて〈おはします〉も忌ま忌ましうかたじけなくなむ のたまふ
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • /01-063と/01-064はセットで色づけする。
  • 四つの文からなる比較的単純な文構造ではあるが、比喩などレトリックが多用され、かなり難易度の高い。次回に詳細な注をつける。
  • 117「百敷に行きかひはべらむことはましていと憚り多くなむ」(対自的)「かしこき仰せ言をたびたび承りながらみづからはえなむ」(対他的)→「思ひたまへたつまじき」
  • 118「いかに思ほし知るにか」→「参りたまはむことを」
  • 119「かくておはします」:主語は若宮

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語彙編

命長さ

寿命が長いこと。娘に先立たれたことから来る。

松の思はむこと

「いかでなほありと知らせじ高砂の松の思はむこともはづかし(どうしても自分が未だに生きているとは知らせたくないものだ、高砂の松がわたしと同じようにおまえは長生きだなと思うのも気が引ける)/古今六帖・五)による。

急ぐめれば

内裏に戻る準備をしているようなので。「めり」は目に見えることを暗示する。

ことわりに

光の君は帝の子なので、宮中に戻るのが道理との認識。

悲しう

母君は宮中に連れ添うつもりがないので、別れることを前提に悲しんでいる。

ゆゆしき身

娘に先立たれた逆順をいうのだろう。

かくておはします

尊敬語の使用から主語は光の君を表す。「かくて」は「かくありて」の省略、このような状態が継続すること。このような草深い場所で帝の子が育つこと。

おさらい

若宮はいかに思ほし知るにか 参りたまはむことをのみなむ思し急ぐめれば ことわりに悲しう見たてまつりはべるなど うちうちに思うたまふるさまを奏したまへ ゆゆしき身にはべれば かくておはしますも忌ま忌ましうかたじけなくなむ とのたまふ

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