限りあれば 例の作 038 ★★☆

2019-09-29★★☆:文の構造を捉え直す01 桐壺,03 衣・食・住・車・内裏・後宮,05 空間/天候・風景・自然・環境

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第4章03

かぎりあれば れいほふにをさめたてまつるを ははきたかた おなけぶりにのぼりなむときこがれたまひて おんおくりのにようばうくるましたりたまひて 愛宕おたぎといふところに いといかめしうそのほふしたるに おはしきたる心地ここち いかばかりかはありけ 
難易度★★☆

規則のあることだから作法どおりに葬って差し上げるが、母君は同じ煙に乗ってあの世へ行ってしまいたいと泣きこがれになり、葬送の女房の車に無体にお乗りになって、愛宕というおごそかに葬儀が執り行われている土地へお着きになったお心持ちは、どのようなものであったでしょうか、

解釈の決め手

御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて:奇矯さ

葬送には、目上の者は参列しないのが慣わしなので、母宮の行動は当時の行動様式から考えると奇矯なものである。しかし、式部は、娘の死が度外れた行動をとらしむることを奇矯とはとらず、同情をもって描いている。これは当時にあっては特異な才能である。清少納言は弱者を好奇な目で見る目はもっているが、同情はしない(同情することはヒエラルキーを逆転させることだから)。万葉の古代世界はこの点おおらかである。「母北の方なむいにしへの人のよしあるにて(母は家柄の古い教養豊かなお方で)/01-006」と響きあう。

いかめしう

内部のエネルギーが外にほとばしり出る様子。母のイメージしていたよりも、葬儀の規模が壮大である。圧倒的であることに加えて、「同じ煙にのぼりなむ」と言ってはみたが、赤々とすごい炎を上げて燃え上がる厳めしいほむらを見て、気持ちが萎縮したであろうことが読み取れる。帝の情愛を受けるということは母の想像に余るのである。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:慣例桐壺更衣の遺体母北の方語り手の思い入れ

  • 限りあれば 例の作法にをさめたてまつるをA
    規則のあることだから作法どおりに葬って差し上げるが、
  • 母北の方・同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて・御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて B・C・D
    母君は同じ煙に乗ってあの世へ行ってしまいたいと泣きこがれになり、葬送の女房の車に無体にお乗りになって、
  • 愛宕といふ所に・いといかめしうその作法したるに・おはし着きたる》 E・F・G
    愛宕というおごそかに葬儀が執り行われている土地へお着きになったお心持ちは、
  • 心地いかばかりかはありけむ H
    どのようなものであったでしょうか、

分岐型・反復型:A<B<C+D<E~EF<G<H

  • A<B<C+D<E~EF<G<H:A<B<C+D<E~EF<G<H(FはEの言い換え)
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:いかばかりかはありけむ/五次

〈限り〉あれば 〈[更衣の遺体]〉078の作法にをさめたてまつるを 〈母北の方〉079じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 080宕といふ所 いといかめしうその作法したる おはし着きたる〈心地〉 081かばかりかはありけむ
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 078「例の作法にをさめたてまつるを」→「母北の方…おはし着きたる」
  • 079「同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて」「御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて」:特殊な対がおかしみを誘う
  • 080「愛宕といふ所に」「いといかめしうその作法したるに」:言い換え
  • 081「いかばかりかはありけむ」:語り手による母北の方に対する心情推量

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 限りあれ 例作法をさめたてまつる 母北の方 同じ煙のぼりなむ泣きこがれたまひ 御送り女房慕ひ乗りたまひ 愛宕いふ所 いといかめしうその作法したる おはし着きたる心地 いかばかりありけむ
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 限りあれば 例の作法にをさめたてまつるを 母北の方 同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて 送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所に いといかめしうその作法したるに おはし着きたる心地 いかばかりかはありけむ
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

限り

かぎること、ここまではよくてここからはだめだというルールが原則。規則。

をさめ

火葬すること。

こがれ

身がやけ焦がれるほど恋しく思う。火葬にかける。

愛宕

今の六道珍皇寺(京都市六条大和小路)のあたり。

おさらい

限りあれば 例の作法にをさめたてまつるを 母北の方 同じ煙にのぼりなむと泣きこがれたまひて 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて 愛宕といふ所に いといかめしうその作法したるに おはし着きたる心地 いかばかりかはありけむ

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