息も絶えつつ 聞こ 032 ★☆☆
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第3章09
息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ
難易度★☆☆
息も絶え絶えに、申し上げておきたいことがおありの様子ながら、どうにも苦しげで辛そうなので、このままどうなれ結果を見届けようと、帝は決心なさるが、今日始めねばなりませぬご祈祷など、例の立派な験者たちが承っております、今宵にもと側女がせき立て申し上げるので、気持ちの納めようもないご心痛ながら、退出をお許しになったのです。
解釈の決め手
聞こえまほしげなること:女か母か母か女か
二つの解釈が可能である。 「息の絶えつつ」の前で文を切る場合(女から母に戻る解釈):光の君の後見をくれぐれもお願いすること。 「息の絶えつつ」の前で切らない場合:(女のままの意識):お約束を守れず申し訳ございませんという帝への別れの挨拶。 しかし、「いとかく思ひたまへましかば、と」を意味的に下にかけることには無理があるので、前の解釈の方が落ち着くように思う。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:桐壺更衣/帝/修験者/不明ながら帝つきの女官(上宮仕へ人)
- 《息も絶えつつ・聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば》A・B
息も絶え絶えに、申し上げておきたいことがおありの様子ながら、どうにも苦しげで辛そうなので、 - 《かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに》 C
このままどうなれ結果を見届けようと、帝は決心なさるが、 - 《今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと・聞こえ急がせば》 D・E
今日始めねばなりませぬご祈祷など、例の立派な験者たちが承っております、今宵にもと側女がせき立て申し上げるので、 - 《わりなく思ほしながら まかでさせたまふ》F
気持ちの納めようもないご心痛ながら、退出をお許しになったのです。
分岐型:A<B<C<(D<)E<F
- A<B<C<(D<)E<F:A<B<C<E<F、D<E
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:ば…思ほしながらまかでさせたまふ/六次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 069「息も絶えつつ」→「聞こえまほしげなる」
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- 息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- 息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
かくながら
この状態のまま。
ともかくもならむ
死を忌避した婉曲表現。
御覧じはてむ
最後の最後まで見届けよう。
さるべき
そうあるべき、それに相応しい、即ち、適任者・立派なの意味。
わりなく
道理にあわないが原義。意に反するが。
おさらい
息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ
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