一の皇子は右大臣の 009

2019-09-28☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺,分配型

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第2章03

いち皇子みこ大臣だいじん女御にようごおんはらにて おもうたがひなきまうけきみにもてかしづき こゆれど このおんにほひにはならびたまふべくもあら りければ おほかたのや ごとなきおほむおもひにて このきみをばわたくしものおもほしかしづき まふことかぎりな 
難易度☆☆☆

第一皇子は右大臣家の娘である女御がお産みの御子で世の信頼が厚く、紛がうことなき次期皇太子だと、世間は大切に慈しみ申し上げているけれど、若宮が放つ魅力には及ぶべくもないことなので、第一皇子は公(おおやけ)として相応に尊ばれたのに対して、この宮は秘蔵子として慈しみお育てになるご愛情には限りがございませんでした。

解釈の決め手

御にほひ:全人の魅力

周囲に発散させる魅力。気品や匂い肌つやの輝きなど。これに後年は声色・話しぶり・言葉遣い・教養などが加わる。

私物:公の中の私

帝の息子たちは次期皇太子候補であり、国家の枢要を担う公的な存在である、帝であっても私物化できる対象ではない。よって、「私物(わたくしもの)」という表現には「私物(しぶつ)」とは異なる意味がなければならない。「私」「公」と対をなす。
一、「公」(社会的評価):「一の皇子」>「光源氏」
二、「私」(帝の個人的評価):「一の皇子」<「光源氏」 つまり、一の皇子は公的な存在とするが、光源氏は公的存在として一の皇子と対立させるのではなく、私人として帝の内面において重視するほどの意味であろう。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:一の皇子世間この君(光の君)

  • 一の皇子は右大臣の女御の御腹にて・寄せ重く疑ひなき儲の君と 世にもてかしづききこゆれどA・B
    第一皇子は右大臣家の娘である女御がお産みの御子で世の信頼が厚く、紛がうことなき次期皇太子だと、世間は大切に慈しみ申し上げているけれど、
  • この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ・おほかたのやむごとなき御思ひにてC・D
    若宮が放つ魅力には及ぶべくもないことなので、第一皇子は公(おおやけ)として相応に尊ばれたのに対して、
  • この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなしE
    この宮は秘蔵子として慈しみお育てになるご愛情には限りがございませんでした。

中断型・分配型:A<B<C<D|*C<E

  • A<B<C<D|*C<E:A<B<C<D、*C<E
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:限りなし/四次

〈一の皇子〉025大臣の女御の御腹にて 寄せ重く疑ひなき儲の君026にもてかしづききこゆれ 027の御にほひには並びたまふべくもあらざりけれ 028ほかたのやむごとなき御思ひにて 〈[帝]〉029の君をば私物に思ほしかしづきたまふこと〉限りなし
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 025「右大臣の女御の御腹にて」(一の皇子に対する事実)→「もてかしづききこゆれ」
  • 026「世にもてかしづききこゆれど」(一の皇子に対する世間評価)→「並びたまふべくもあらざりけれ」
  • 027「この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ」(光の君との事実比較)→「おほかたのやむごとなき御思ひに」
  • 028「おほかたのやむごとなき御思ひにて」(一の皇子に対する帝の内面評価)→「この君をば私物に思ほしかしづきたまふ」:帝の外面(公)と内面(私)の対比
  • 029「この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし」:光の君に対する帝の内面評価

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 皇子右大臣女御御腹 寄せ重く疑ひなき儲もてかしづききこゆれ こ御にほひ並びたまふべくあらざりけれ おほかたやむごとなき御思ひ こ私物思ほしかしづきたまふこと限りなし
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 一の皇子は右大臣の女御の腹にて 寄せ重く疑ひなき儲の君と世にもてかしづききこゆれど このにほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

寄せ

気持ちを寄せる対象で、世間からの信頼、期待。

疑ひなき

他に取って変わられる恐れがないこと。

儲の君

次期帝となる人。すなわち東宮、皇太子。

世に

非常にの意味でも使用されるが、ここでは世間ではの意味を含む。「もてかしづききこゆれ」の主体は世間。帝であれば尊敬語がつく。

おほかたの

この場合「私物」の「私」に対立する。公事、世間的に。

やむごとなき

やむことがない。

御思ひ

愛情。

おさらい

一の皇子は右大臣の女御の御腹にて 寄せ重く疑ひなき儲の君と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし

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