それにつけても世の 022
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第2章16
それにつけても世の誹りのみ多かれど この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふを え嫉みあへたまはず
難易度☆☆☆
そうした帝のなされようにつけても世間では逆順のそしりばかりが聞かれましたが、この御子のご成育あそばされてゆくお顔立ちや趣味のよさは、たぐい稀れで賞賛せずにはおれないようにいらっしゃるのを、誰も憎み切ることはおできになれず、
解釈の決め手
心ばへ:ダンディズム
通例「気性」「性質」「気立て」「気質」等と解釈されるが、「およすけもておはする」は時間をかけて生育していく、すなわち変化を表すので、上記のような一般に変化しにくい事柄ではなかろう。「心延へ」の原義、心が向うその傾向の意味で、ここでは洗練された美意識、趣味の良さである。具体的には服装などの趣味の良さや、所作のすみずみにまでゆきわたる美的な心配りである。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:世(世の人々、後宮の女性や諸大臣たち)/光源氏
- 《それにつけても世の誹りのみ多かれど》A
そうした帝のなされようにつけても世間では逆順のそしりばかりが聞かれましたが、 - 《この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふを え嫉みあへたまはず》 B
この御子のご成育あそばされてゆくお顔立ちや趣味のよさは、たぐい稀れで賞賛せずにはおれないようにいらっしゃるのを、誰も憎み切ることはおできになれず、
直列型:A<B
- A<B:A<B
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:をえ嫉みあへたまはず/四次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 057「世の誹りのみ多かれど」→「え嫉みあへたまはず」
- 058「この御子のおよすげもておはする」(A「主格」のB連体形)→「御容貌心ばへ」
- 059「御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふ」(A+B連体形):「御容貌心ばへ」がA「見えたまふ」がB(058のB連体形と重複するため主格「の」を省略したか)
- 060「え嫉みあへたまはず」:ここで文が終止すると考えることもできるが、意味上は次の文とつながるので、連用中止法と考えたい
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- それにつけても世の誹りのみ多かれど この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふを え嫉みあへたまはず
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- それにつけても世の誹りのみ多かれど この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふを え嫉みあへたまはず
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
それにつけても
光の君の袴着を、東宮第一候補であるはずの一の宮と同程度の規模で行ったことに対して。
世の誹り
このままでは光の君が皇太子になるのではとの陰口。
およすげ
成長する。この動詞は連用形しか見つかっていない。
もておはする
「もて」は、時間や労力をかける、心をこめるの意味を添える。もてあつかう・もてかしづく・もてあつかふなど。
見えたまふ
「見ゆ」は傍目からそう見えるの意味で受け身表現。「たまふ」は主語である光の君に対する尊敬語。「心ばへ」が内面の問題であれば、外に現れる対象にならない。
え…ず
決して…できない。
あへ
すっかりしてしまうの意味を添える。ここでは否定表現を伴い。多少嫉むことがあっても、完全に嫉むということはできなかったとの意味になる。
おさらい
それにつけても世の誹りのみ多かれど この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたまふを え嫉みあへたまはず
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