参う上りたまふにも 017 ★☆☆

2019-09-28★☆☆:語義の洗い直しから01 桐壺,03 衣・食・住・車・内裏・後宮

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第2章11

のぼりたまふにも あま うちしきる折々をりをりは うちはしわた殿どののここかしこのみちに あやしきわざをしつつ おんおくむかへのひところもすそ へがたくまさな こともあ 
難易度★☆☆

更衣から帝のもとへ参上なさる場合にも、あまりたび重なる折りには、廊下の掛け橋や渡り廊下のそこここに、汚らわしい仕掛けをしては、送り迎えに立つ女官の裾は、耐えがたく今宵の段取りが台無しになることもしばしばで、

解釈の決め手

あやしきわざ:赤不浄

諸注によると、着物を何かでひっかけて裾を切るとか、糞尿を巻くなどしたとする。しかし、悪質であってもいたずらの域を出ない。狙いは何か。端的に言えば、帝が更衣を抱けない体にすること、子を宿しているなら流産させることである。むろん、直接手を下すわけにはいかないが、呪詛という手段があるのだ。従って、ここは糞尿ではなく、月のものを撒いたと考えるべきだ。「あやしきわざ」は「妖しき業」である。汚れるのが「御送り迎への人」とあって、更衣の裾となっていない点が気になるが、更衣が直接穢れれば、呪詛が帝にまで及びかねない、それを避けたのだと思う。

ここがPoint

経血の呪い

宮中では「死」や「出産」が忌避されていることは、源氏物語の中でも明らかである。血や月経に関しては、描写がないので判然とはしないが、延喜式などによると、人の死に触れた場合は三十日間、出産に立ち会った場合は七日間、神事から外れる規定になっている。月経に関しては懐妊月事条として穢れとされているが、明確にどうすべきか判明しない。血に関しても、死をイメージする場合は穢れと認識されているが、命の源のようによいイメージもあり、量にもよるだろうが血それ自体は穢れの対象ではない。ただし、宮中では、内裏で「血下の穢(月経だろう)」があったために、賀茂祭の勅使や斎王が内裏に入るのを止められ(839年)、また宮中の神事である園韓祭で鼻血のため官人の交代した(851年)(いずれも『西宮記』)とある。『古事記』景行天皇には、「さ寝むと吾は思へど 汝が着せる意須比の襴(スソ) 月たちにけり」とヤマトタケルノミコトがミヤズヒメとの結婚に際して、すそが月経で汚れていることを指摘し、躊躇する場面がある。ただしその後、比売の歌に感応して、関係を結ぶことにはなる。道教では経血は明らかに穢れとされており、道教と深くかかわる宮中でもそれが言えるのではないか。糞尿は管理されているが、経血は誰かかれが月経であるだろうから宮中では手に入りやすかったのではないか。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:桐壺更衣桐壺を恨みに思う更衣(尊敬語がないので女御はのぞく)帝付きの女房と桐壺更衣付きの女房

  • 参う上りたまふにも・あまりうちしきる折々は A・B
    更衣から帝のもとへ参上なさる場合にも、あまりたび重なる折りには、
  • 打橋渡殿のここかしこの道に・あやしきわざをしつつC・D
    廊下の掛け橋や渡り廊下のそこここに、汚らわしい仕掛けをしては、
  • 御送り迎への人の衣の裾・堪へがたくまさなきこともあり E・F
    送り迎えに立つ女官の裾は、耐えがたく今宵の段取りが台無しになることもしばしばで、

分岐型:A<B<(C<D<)E<F

  • A<B<(C<D<)E<F:A<B<E<F、C<D<E
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:もあり/四次

〈[桐壺更衣]〉046う上りたまふにも 047まりうちしきる折々 〈[他の更衣]〉048橋渡殿のここかしこの道に あやしきわざをしつつ 御送り迎への人の〈衣の裾〉 049へがたくまさなき〈こと〉もあり
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 046「参う上りたまふにも」(「御前渡り/01-016」と対比)→「まさなきこともあり」
  • 047「あまりうちしきる折々は」→「まさなきこともあり」
  • 048「打橋渡殿のここかしこの道にあやしきわざをしつつ」→「まさなきこともあり」
  • 049「堪へがたく」「まさなき」:並列

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 参う上りたまふ あまりうちしきる折々 打橋渡殿ここかしこ あやしきわざつつ 御送り迎へ裾 堪へがたくまさなきことあり
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • 参う上りたまふにも あまりうちしきる折々は 打橋渡殿のここかしこの道に あやしきわざをしつつ 送り迎への人の衣の裾 堪へがたくまさなきこともあり
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

★ ★

語彙編

参う上りたまふ

「何事にもゆゑある事のふしぶしにはまづ参う上らせたまふ/01-011」とあり、「参う上る」は桐壺が帝の元に参上すること。前文「御前渡り/01-016」は帝が桐壺の元に行くことと対比をなす。

打橋

建物と建物をつなぐ取り外し可能な橋。

渡殿

南面する帝がおられる寝殿と、その東西両側にある夫人方の住む対屋(たいのや)とをつなぐ屋根つきの廊下。

しつつ

「つつ」は繰り返された行為を表す。

御送り迎への人

「参う」は帝に向かってゆくことであるから、帝が移動するわけではないので、夜、更衣の方から清涼殿に行くときの模様である。清涼殿に行くときの迎えは帝つきの女房、送りは更衣つきの女房であろう。

まさなき

予想・予期したことから外れるが原義。不都合な場合をいう。具体的には帝への夜の務めができなくなったことを言う。

おさらい

参う上りたまふにも あまりうちしきる折々は 打橋渡殿のここかしこの道に あやしきわざをしつつ 御送り迎への人の衣の裾 堪へがたくまさなきこともあり

★ ★ ★