あまたの御方がたを 016
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第2章10
あまたの御方がたを過ぎさせたまひて ひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり
難易度☆☆☆
あまたのご夫人方の局を素通りされ、休むひまない帝のお通いに、人の心をすり減らしになるのも、まことにもっともだと思えました。
解釈の決め手
御前渡り:宮中に潜む闇
帝は夜が明ける前に起き出し、日が中天にかかるまでの太陽のエネルギーが強い時には、紫宸殿で政務をこなし、昼からは後宮の夫人たちの局で過ごし、夜は清涼殿で夫人たちを迎えるのが、聖天子としての理想とされた。すなわち、男性社会と女性社会の頂点に君臨し、ともにエネルギッシュであることが求められたのである。ここで問題になるのは、夜、桐壺更衣が清涼殿に向かう時のこと。更衣一人が通うはずはない。更衣をお迎えする帝つきの女官、更衣は自分ひとりで脱いだ服を着ることはできないので、更衣の身の回りの世話をする更衣つきの女房たちも従え、行列を作って清涼殿に向かうのである。他の女御更衣にしてみれば、帝の夫人となったからには帝の性愛を受けることが悦びであったろうに、今夜も今夜も今夜も自分は呼ばれず、格下の更衣のみが呼ばれて、自分の部屋の前を衣擦れの音を残しながら、長々と通り過ぎて行くのである。帝の愛情が一族の命運をも左右した時代である。更衣を恨む気持ちが芽生えてもおかしくない状況なのだ。
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:他の女御・更衣/帝/語り手の感想
- 《あまたの御方がたを過ぎさせたまひて・ひまなき・御前渡りに》A・B・C
あまたのご夫人方の局を素通りされ、休むひまない帝のお通いに、 - 《人の御心を尽くしたまふも・げにことわりと見えたり》D・E
人の心をすり減らしになるのも、まことにもっともだと思えました。
分岐型:A+B<C<D<E
- A+B<C<D<E:A+B<C<D<E
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:と見えたり/二次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 044「あまたの御方がたを過ぎさせたまひて」「ひまなき」(並列)→「御前渡り」
- 045「ひまなき御前渡りに」→「人の御心を尽くしたまふも」
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- あまたの御方がたを過ぎさせたまひて ひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- あまたの御方がたを過ぎさせたまひて ひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
御方がた
一般には女御をさすが、女御は二三人からせいぜい五人を満たない。「あまたの」とあるのでここは更衣を含める。
過ぎさせたまひて
主語が帝だから「させたまひ」は最高敬語。「させ」はここでは、人に~させるの使役ではない。
おさらい
あまたの御方がたを過ぎさせたまひて ひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり
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