この大臣の御おぼえ 170 ★☆☆

2019-09-29★☆☆:語義の洗い直しから01 桐壺

解読編

桐壺 原文 現代語訳 第10章30

この大臣おとどおほむおぼえ いとやむごとなき  ははみや内裏うちひときさいばらになむおはしけれ  いづかたにつけてもいとはなやかなる  このきみさへかくおはしひぬれば とうぐうおん祖父おほぢにて つひになかりたまふべきみぎの大臣おとどおんいきほひは ものにもあらずされたまへ  難易度★☆☆
この大臣への帝のご信任はとても篤いうえに、姫の母宮は帝と同母の生まれでいらっしゃったので、両親いずれをとっても大変なご威光なのに、この君までこのようにお越しになって縁づかれたからには、東宮の御祖父でいずれ天下を掌握なさる右大臣のご権勢も、元来不動のはずが圧されることともなった。

解釈の決め手

ものにもあらず:揺らぐはずもないものが揺らぐ

ものの数でもなくと訳されてきた。現代語で「ものの数でない」とは、取るに足りぬの意味であるが、左大臣家に光源氏が嫁いだからといって、東宮を擁する右大臣家がものの数でなくなる、なんてことはありえない。ここも「もの」の原義から考えなければならない。「もの」は不動で動かしがたい存在。本来「もの」のように押しも押されもせぬ権勢家であるのに。「にも(あらず)」は「柄にもなく」「口ほどにもなく」などの「にも」。「もの」であるのに「もの」の性質を弱め。

解析編

語りの対象・構造型・経路図

対象:左大臣大宮(左大臣の正妻、葵の上の母)左大臣と大宮光源氏右大臣(娘は弘徽殿の女御で、その第一子が東宮)

  • この大臣の御おぼえ いとやむごとなきに・母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ》A・B
    この大臣に対する帝のご信任はとても篤いうえに、姫の母宮は帝と同母の生まれでいらっしゃったので、
  • いづ方につけてもいとはなやかなるに・この君さへかくおはし添ひぬれば 》C・D
    両親いずれをとっても大変なご威光なのに、
  • 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の御勢ひは ものにもあらず圧されたまへり》E
    この君までこのようにお越しになって縁づかれたからには、東宮の御祖父でいずれ天下を掌握なさる右大臣のご権勢も、元来不動のはずが圧されることともなった。

分岐型:A+B<C+D<E

  • A+B<C+D<E:A+B<C+D<E
  • A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
  • 〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法
  • 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

述語句・情報の階層・係り受け

構文:ば…の…は…圧されたまへり/四次

この大臣の〈御おぼえ〉 いとやむごとなきに 〈母宮〉内裏の一つ后腹になむおはしけれ 〈[左大臣夫妻]〉いづ方につけてもいとはなやかなる この〈君〉さへかくおはし添ひぬれ 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の〈御勢ひ〉はものにもあらず圧されたまへり
  • 〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]:補 /:挿入 :分岐
  • 「この大臣の御おぼえいとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ」「いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば」は対の関係

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

  • 大臣御おぼえ いとやむごとなき 母宮内裏一つ后腹なむおはしけれ いづ方つけいとはなやかなる こさへかくおはし添ひぬれ 春宮御祖父 つひに世知りたまふべき右大臣御勢ひ ものあら圧さたまへ
  • 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
  • この大臣のおぼえ いとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば 春宮の祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の勢ひは ものにもあらず圧されたまへ
  • 尊敬語 謙譲語 丁寧語

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語彙編

御おぼえ

左大臣に対する帝からの信任。

やむごとなき

最上。

内裏の一つ后腹

葵の上の母方の両親は、父が先の帝、母は今上帝(光源氏の父)と同母。すなわち、葵の上の母は帝の姉妹である。

内裏

ここでは今上帝(光源氏の父)。

いづ方につけても

父方も母方もの意味。

かくおはし

このようにいらっしゃって。「おはす」は「来」の尊敬語。

知り

統治すること。

圧されたまへり

政治のバランスが東宮を擁する弘徽殿の女御や父の右大臣側から左大臣側に移ってゆくことを意味する。そこからまた右大臣側の逆襲が始まり、光源氏は須磨へと逃れることになる。政治バランスは源氏物語の大きな構造のひとつである。

おさらい

この大臣の御おぼえ いとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の御勢ひは ものにもあらず圧されたまへり

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