はじめより我はと思 002
解読編
桐壺 原文 現代語訳 第1章02
はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ
難易度☆☆☆
入内当初より我こそ正妻だと気負っておいでの女御方は、目障りでならぬと、おとしめそねみになる。
解釈の決め手
思ひあがり:国母となる自負心
単に自負の念が強い等の意味ではなく、帝の寵愛を得て次期皇太子を宿すのは私だとの激しい意気込み・プライド。上流貴族の娘が宮廷生活に入る目的は御子を生み、皇太子に据えること。女御を支える一家の命運がここにかかっている。
もの:人事の及ばぬ異物
「人」に対立する語で、めざましさそのもの(「めざましさ」が物象化して目の前に立ち現れたという感覚)。軽視の対象として物扱いされているとする注もある。異論はないが、現代人には日常感覚では生じない「もの」への感覚、動かせない、思い通りにならない、心が通わない、違和感、圧迫感など様々な感覚を呼び覚ます点で、注意すべき重要語。この語にあったら、きわめて強い感情が働いているのだなと想像してみるとよい。
ここがPoint(第1章01の補講)
同格ってなんだ
一、前が主情報、後が追加情報
二、文中で同じ格として働く
「いとやむごとなき際にはあらぬがすぐれて時めきたまふ/ありけり」
同格の場合:「(A+B)/ありけり」
A:「いとやむごとなき際にはあらぬ[人]が/ありけり」
B:「すぐれて時めきたまふ[人]/ありけり」
情報の重みは A=B または A>B
主格の場合:「AがB(する)[こと]/ありけり」
A:「いとやむごとなき際にはあらぬ[人]が」
B:「すぐれて時めきたまふ[こと]」
情報の重みは述語が重く A<B
「宮中にさして高貴でない女性がいた」という情報と、「宮中で帝の寵愛を独占する女性がいた」という情報の、どちらに重きをおいて読むかで〈同格説〉〈主格説〉が決まる。決して形だけで決められるものではない。
訳の「で」ってどこから
源氏物語には「連体形+ありけり」が三例あり、いずれも「こういう人があった」と想起している時の表現である。
一、「この姫君の母北の方のはらから 世におちぶれて受領の北の方になりたまへる ありけり」(蓬生)
二、「この御後見どものなかに 重々しき御乳母のせうと 左中弁なる かの院の親しき人にて年ごろつかうまつる ありけり」(若菜上)「親しき人にて」は「近臣として」の意味。
想起とは、「こういう」事態を起こした「人があった」と思い出すこと。「人/ありけり」(存在文)+「~する」(事態)と考えられる。
一、「はらから/ありけり」(存在文)+「なりたまへる」(事態)
二、「御乳母のせうと/ありけり」(存在文)+「つかうまつる」(事態)
冒頭「際にはあらぬ[女性]が/ありけり」(存在文)+「時めきたまふ」(事態)
同格では「…の人で、~する人がいた」と訳す。
主格では「…の人が~することがあった」と訳す。(「…の人がいて、~した」)
結局のところ、存在に重きをおくか(「ありけり」の意味が強い)、事態の発生(「ありけり」は形式化)に重きをおくかにかかっている。
同格を表す「の」にならって、「が」にも次のように「~で」と訳して同格を表す用法を認める説がある。…しかし、他に同格と認められる例は見当たらず、この例の「が」も…主格を表す例と解釈できるため、ここでは同格の用法を認めない立場を取った。『全訳全解古語辞典』文英堂刊
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解析編
語りの対象・構造型・経路図
対象:御方々(女御たち)/桐壺更衣
- 《はじめより・我はと・思ひあがりたまへる御方々》A・B・C
入内当初より我こそ正妻だと気負っておいでの女御方は、 - 《めざましきものに おとしめ嫉みたまふ》 D
目障りでならぬと、おとしめそねみになる。
分岐型:A<(B<)C<D
- A<(B<)C<D:A<C<D、B<C
- A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
- 〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列 〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
述語句・情報の階層・係り受け
構文:におとしめ嫉みたまふ/三次
- 〈主〉述:一朱・二緑・三青・四橙・五紫・六水 [ ]:補 /:挿入 @・@・@・@:分岐
- 004「はじめより」→「思ひあがりたまへる」
附録:助詞・敬語の識別・助動詞
- はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ
- 助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
- はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ
- 尊敬語 謙譲語 丁寧語
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語彙編
はじめより
宮仕えを開始した当初から。時間のみならず、端から入内の目的がこうだの意味でもある。
我は
「我は正妻たらむ」ほどの意味。
御方々
女御たち。
めざましき
目につき目障りとの拒絶意識。
おさらい
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